―Snownotes, 「ふんすい。」(1)

 

 

 

-Contents-

Special Links(Novels)

| メニュー | (2)»

 

「えっと……、映画おもしろかったね」
  彼女がおずおずと訊ねてくる。小首をかしげるその仕草はかわいらしかったけど、どこか遠慮の混じった声にイライラする。
  向こうから告白されてなんとなく付き合った彼女。ふたりきりで合うのも3回目だ。大学で同じサークルだから全く知らなかったわけでもないけど、機会があれば少し話をする程度の仲。同年代の割に落ち着いてて結構かわいいという印象があっただけでどこに住んでいるのかさえ知らない。本当にそんな程度だった。だから付き合ったのが気まぐれかと聞かれればそうとしか言えない“恋人同士”だ。
「ああ……。そうだね」
  正直たいしたことなかったけど、面倒だからそう答えた。普通に答えたつもりなのに、なぜか彼女がびくっと肩をこわばらせるのに、さらにイライラが募る。その上、途端に話題が無くなって辺りの喧騒だけが妙に耳障りに響き、もうここから逃げ出したい気分だ。
  初夏とは名ばかりで、梅雨の雲の合間を縫って挿すじっとりとした日差し。湿気を帯びて生暖かい空気の不快感も手伝い、自分の中にドロドロとしたモノがたまっていく感覚が気持ち悪かった。

「あ、噴水」
  そんな、1分が5分にも10分にも感じられる中、不意に彼女がつぶやいた。目をやれば少し大きめの公園。その中心には大きな噴水があった。
「ん? どうした?」
「えっ? なんでもないよ」
彼女はそういいながらも所在なさげにもじもじと迷っていた。
「いいよ。どうせこの後どうするか決めてなかったし。今の時間ちょうど昼時だし、どこも混んでるだろ。昼飯はここで時間つぶしてからいこう」
「……うん」
本当はイタリアンの店を予約してあったけどそういう気分でもないし、俺と居てここまでなにかに興味を示したことはなかったから、行ってみることにした。
「あっちでいい?」
木陰のベンチを指さして首をかしげる。返事をするなり、彼女にしては珍しく俺の前を足取りも軽く小走りして進む。そんな彼女を後ろからぼんやり眺めていると、先にベンチにたどり着いた彼女が俺を手招きする。なぜか少しだけ気持ちが軽くなったような気がして、少し足早に彼女の元に向かった。

 木陰のベンチは、噴水の爽やかさと木々の優しさを合わせた風が吹いて気持ちいい。ふたりで何をしゃべるわけでもないけど、隣にいる彼女はなぜか楽しそうだった。俺はというと、することもなくてぼんやりと辺りを眺めていた。
  俺たちと同じようにベンチに腰掛け、言葉を交わす老夫婦。この暑い中あえて日向でたたずむサラリーマン。公園の奥にある建物の喫茶店でお茶を片手に話を交わす人たち。みな、とどまる場所は違えども視線はあの大きな噴水に注がれていた。
  ザーという水音と共に、水がさっと天に向かって伸び、一瞬止まったように見えたと思えばまたすっと速さを増し落ちていく。
彼らは何を想って見ているんだろうか。彼女は何を今考えているんだろう。
「噴水……、綺麗だね」
「うん」
  また話がそこで切れてしまう。この居心地の悪い沈黙になぜかふと、予約の事を思い出した。そろそろ時間になってしまう。無視してしまおうかとも思ったけど、なんとなく悪い気がした。
「向こうの建物の中にトイレありそうだよな。俺ちょっと行ってくるわ。悪いけどここで待ってて」
「私も」と言われないように言い切ってしまう。上手く誤魔化せたと思いながらベンチから立ち、歩みを進めた。背に妙に優しく感じる「いってらっしゃい」を背に受けて。

 

| メニュー | (2)»

 

ここまでお読みいただいてありがとうございました。
感想募集中です。よろしければ簡単なアンケートにお答えいただければ幸いです。

□作品名
□この作品はいかがでしたか? 

□感想(無記入でも大丈夫ですが書いて下さると嬉しいです。)

 

 

copyright(c) 2005- Yuu Katsura/ snownotes console All Rights Reserved.