Special Links(Novels)
付き合いって面倒だとつくづく思う。うちの大学の文芸のサークルは、校内のサークルの中でも活動が盛んでわりと硬派な同人誌を作る純文系。文壇にもこのサークルの出身者は多い。今日はメインの活動とも言える季刊同人誌の校了を祝う飲み会だった。ただ、純文系のサークルといっても別に書いているのは普通の大学生。飲みつぶれるまで飲むようなよくある大学生の飲み会。
私はもともと書き手というよりは読み手だし、このサークルでは唯一といっていい評論専門。アルコールが入ってかしこで繰り広げられている小説書きの談義に加わる気もおきなくて、ちびちびとお酒に口をつける。今日もレトリック――修辞法、文章の飾り方、についての話みたいだけど私に言わせればそんなの後から付いてくるもので、磨かれた感性の方がよっぽど大切だと思う。……まぁ、誰かに言うわけでもないけど。
ふぅと小さくため息をついてくびりとグラスに口をつけるとふと彼と眼があった。2年生にしてこのサークル期待の星で、有名新人賞の最終選考一歩手前までいった実力の持ち主。文章のレトリックはそれこそイマイチだけど、訴えかけてくるなにかがある文章を書く人。――私の彼氏。
誰にでも親しみの持てる人柄と優しげなルックスでサークル内には不可侵条約とかいう中学生みたいなモノまである。だから大学内で私たちが付き合っていることを知っている人はいない。面倒なことは嫌だし。
彼は私の顔を見ると苦笑した。たぶん私も苦笑し返していた。彼が居るから来たけど本来こういう場は好きじゃないし、彼もそのことを分かっているから申し訳ないと思ってくれたんだと思う。――本当は彼も付き合いなんだろうけど。
まだ2年生の私たち。特に彼は周りからちやほやされているから、それを妬む人も多い。それが分かっているから上手く立ち回ろうと彼なりに必死なのだと思う。
……ふぅ。またため息をついて一口お酒に口をつける。――おいしくない。なんでかな……? このお店前に来たときはもっとお酒も料理も美味しかったとおもったんだけどな。
もうまずいお酒に口をつけるのも飽きて、彼の方を盗み見る。彼もろくに口をつけていないようだった。また、ため息をついてふと携帯に眼をやった。メールの着信が。「もうすぐお開きだから、二次会に行かずに俺の家で合流」最後に句点もなくてそれだけだったけど、たぶん最後まで打つスキがなかったんだろう。もう一度彼と目があったからうなずいてみせた。
結局お開きになっても彼は今回の作品についていろいろ聞かれていた。まぁ、口の上手い彼なら上手く切り抜けるだろうと先にこっそりと抜け出した。
飲み会の会場から彼の家まで徒歩で行けたから、後から彼が早足でやって来てくれることを期待してゆっくり歩いてみる。繁華街を抜けるとぽつりぽつりとしか電灯がなくて寂しさに拍車がかかる。さっきまでのアルコールが気持ち悪くてこんどは悲しくなった。
彼から携帯にも連絡がないし、彼の姿も一向に見えない。やっぱり寂しく思いながらとぼとぼと歩いていく。彼の家までもうちょっと。その手前のコンビニが見えた。ふらふらっと明かりに誘われて入ってみる。
何故か気になったのはお酒のコーナー。思うがままに任せて足を運び適当に缶チューハイを2本取ってレジに向かう。
コンビニを出たらもうすぐに彼の家。もしかしたらもう彼が入れ違いで来てくれているかなと期待してドアノブを回すけどやっぱりカギはかかったままだった。仕方がないから合い鍵を取り出して彼の部屋に入る。
ソファーにひとり座って、無意識にコンビニの袋から缶を取り出していた。そのまま缶を開けて一口飲む。……やっぱりまずかった。缶をテーブルにおいて、はぁーと深いため息をひとつ。
「なんかなぁ……」
ひとりつぶやいていた。いつもおいしいものがおいしくない。もう一人で寝ちゃおうかなんて思ったその時、彼が帰ってきた。
「遅くなってごめんね。みんな二次会にこいってうるさくてさ」
そういう彼の手にも私と同じコンビニに入ったお酒。
「なんだよ、一人でのんでたのかよ。二人で飲み直そうぜ」
あのお店のお酒より美味しくないはずの缶チューハイ。事実さっきは美味しくなかった。なのに、彼とふたりで乾杯した後の缶チューハイはとってもおいしかった。
不思議そうな顔をしていたのか、彼が笑いながら言う。
「美味しいのは二人でのんでるからだよ」
やっぱり一緒に飲む人でお酒の味なんて全然違うからねと彼は続けた。
好きな人の隣だと缶チューハイでもこんなに美味しかったっけ? でも美味しいからいいや――。
「やっぱり好きな人と飲むお酒には“恋のスパイス”でも入ってるのかな」
酔いの回った頭で取り留めもないことを言うと彼が笑ってくれた。笑顔があるってそれだけですごいんだな。楽しいって素敵なことなんだな。そんなことを思いながら夜を明かしていった。
――気が付いたら彼の膝の上で寝ていたみたいだった。彼も私の頭に手を起きながら寝息を立てていた。開けっ放しだった窓から差し込む朝日と、早朝の涼しい風が心地よくておいしかったお酒の後味と大好きな彼のにおいに包まれて、一層幸せになる。
彼が起きるまでもうちょっと。寝顔を見ながら膝枕を味わおう。
終
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